2018.12.21

調香を楽しむための基礎知識3
サイコ・アロマチャート式に基づくブレンド

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自然のままの香り、精油を使って自分好みのブレンドを完成させる。初心者には何を手掛かりにしたらいいかまったく見当もつきませんよね。

初めは1種類、気に入った香りを使ってみる。また1種類、また1種類と好きな香りが増えていくに従って、いくつかの香りを組み合わせて、違う香りを演出してみたくなるものです。

ブレンド(調香)の基礎について全4回に渡って紹介していくシリーズ。

1回目は「フレグランス・チャート」を使ったブレンド方法について。2回目は精油が持つ香りのノート(調子)を使って、バランスの良い香りの「組み立て方」について紹介しました。

第3回目は、精油を作用を別の角度からとらえた「サイコ・アロマ・チャート」についてとそれに基づくブレンド方法について解説していきましょう。

また次の最終回では、歴史に名を遺した名香からブレンドのヒントを探ります。

「サイコ・アロマ・チャート式」の生みの親は英国人のロバート・ティスランド氏

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「サイコ・アロマ・チャート式」というのは、イギリスのアロマセラピスト、ロバート・ティスランド氏が考案した精油の分類法です。

ロバート・ティスランド氏は、1977年に自身のマッサージセラピストとしての経験や研究を基に「アロマテラピー:<芳香療法>の理論と実践(The Art of AROMATHERAPY)」を出版。この書籍は世界12の言語に翻訳され、アロマセラピストのバイブルともなっています。

1988年にはティスランド・インスティチュートを設立。職業アロマセラピスト教育の新しい基準を設けました。

数多くの日本人がロバート氏のスクールで学び、日本のアロマテラピー普及を担ってきたといっても過言ではありません。

ロバート氏は、精油1本1本をかいだときに、血液中にどんなホルモンが分泌されたかを調査。

そのホルモンを分泌する指令を出す脳の部位を特定し、精油がもたらす心理的・生理的な側面から6つのグループに精油を分類したのが「サイコ・アロマ・チャート」です。

「サイコ・アロマ・チャート」とはどんな考え方?

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古代の人々が身の危険をいち早く察知し、逃げる、戦うなどの判断をするときに、香り(匂い)は大変重要なものでした。このため嗅覚は、脳の中で原始的な脳といわれる「大脳辺縁系」といわれる部位に直接つながっています。

「大脳辺縁系」は、生きるために必要な呼吸や血液循環のコントロールなどを司っている脳幹や、ホルモン分泌をコントロールする視床・視床下部・下垂体などを含みます。

このため、私たちの心や体は香りをかぐと同時に素早く反応。例えば、焼き鳥やウナギを焼くいい香りをかぐと、お腹がグーッと鳴り、唾がでてきますよね。

反対に嫌いな香りをかぐと、イライラしたり、不安な気持ちになったことはありませんか?

他の感覚、視覚・味覚・触角・聴覚に比べると、本能や感情と瞬時に、ストレートに結び付くのが嗅覚の特徴です。

「サイコ・アロマ・チャート」は、こういった香りをかいで起きる反応や血液中に分泌されているホルモンの変化をひとつひとつ調査。

精油をかいだときに、脳のどの部位を刺激しているかを推測し、「刺激・鎮静・元気鼓舞・幸福・調整・催淫」の6つのグループに分類しました。

実際にブレンドを組み立てる前に、まずはそれぞれのグループと精油の特徴について解説しておきましょう。

「サイコ・アロマ・チャート式」で分類した精油の特徴

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「サイコ・アロマチャート式」は、精油の特徴がつかみやすく、目的や狙い合ったブレンドを完成させやすいというメリットがあります。

精油を抽出する植物の部位で分類する「フレグランス・チャート式」と合わせて覚えておくと、大変役に立ちますよ。

集中力アップや記憶力を呼びさます香り「刺激」のグループ

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PC作業が続くと集中力が途切れ、ミスが増えます。また、残業などで疲労がたまると、考えがまとまらなかったり、物覚えが悪くなったりという経験はありませんか?

そんな時に役に立つのが「刺激」のグループの香りです。

このグループの特徴は、香りをかいだ時に、脳の中の記憶をつかさどる海馬状隆起や、恐怖・不安を呼びさます小脳扁桃を刺激。アドレナリンを分泌し、交感神経(自律神経)を緊張させます。

ペパーミントやローズマリー、レモン、バジル、ユーカリ、ティートリー、サイプレスなどがこのグループ。すーっとしてリフレッシュさせてくれる爽やかな香り、刺激的なシャープな香りがそろっています。

心配や不安、寝つきが悪い時に役立つ「鎮静」のグループ

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仕事がうまくいかない、失敗が続いて気持ちが落ち込む時は誰にでもあることです。ストレスが続くと、夜寝つきが悪い、すぐに目が覚めてしまうことも。

そんな時におすすめなのが「鎮静」のグループです。

このグループの特徴は、脳の中の中脳や脳幹の内側に分布する細胞の集まり、縫線核に届き、セロトニンというホルモンを分泌させます。

セロトニンは、感情をコントロールし、安定した精神状態を維持。分泌が少なくなると、イライラしたり、衝動的になったり、気分が落ち込んだりします。

また、痛みを鎮める鎮痛作用や自律神経の乱れを整える作用も。眠りを深める働きで、睡眠の質も良くしているので、大切なホルモンの一つといってもいいでしょう。

ラベンダーやカモミール、スイートマジョラム、ネロリ、サンダルウッド、ベチバー、プチグレンなどがこのグループです。甘く濃厚なトーンをもつものが多く、呼吸を深くしてくれるような重い香りもあります。

退屈している時、活力がほしい時に「元気鼓舞」のグループ

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長時間単純作業を続けていると、だんだん飽きてきてやる気が出なくなることはありませんか。

また、免疫が下がり、風邪をひきそうだなと感じるときは、何か元気がでるようなものがほしくなりますよね。

そんな時におすすめなのが「元気鼓舞」のグループです。

このグループの香りは、脳の中の脳青班といわれる場所を刺激します。脳青班は脳幹にあり、ノルアドレナリンというホルモンを分泌します。

刺激のグループで紹介したアドレナリンは恐怖感を感じた時に分泌されますが、ノルアドレナリンは怒りや緊張を感じた時に分泌されます。

アドレナリンが全身的な作用を及ぼすのに対して、ノルアドレナリンは交感神経の末端などから分泌され、脳の活性化もスピーディ。

ローズマリーやジュニパー、レモングラス、ミルラ、カルダモンなどがこのグループ。シャープでクリアな香りがそろっています。

心身のバランスが乱れているときに役立つ「調節」のグループ

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情緒不安定になったり、ホルモンバランスが乱れたり、身体の調整機能がうまく働かないことがあります。特に女性は生理周期とともにホルモンが変化するため、影響を受けやすいですよね。

このグループは視床下部に働きかけ、ホルモンや神経ペプチド アミンなどを分泌させます。

視床下部は体内の恒常性を維持する(ホメオスタシス)働きを担っており、自律神経系やホルモン分泌の司令塔になっています。

ゼラニウムやベルガモット、ローズ・アブソリュート、フランキンセンスなどがこのグループ。女性が好みそうな、爽やかな香り、甘く華やかな香りがそろっています。

憂鬱な気分を引き上げてくれる「幸福」のグループ

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自信をなくしたり、ストレスで気分が落ち込んだりしたときは、安心感を与えてくれるものがほしくなります。

このグループは視床に働きかけ、脳内麻薬物質といわれるエンケファリンを分泌させます。

視床は外部から次々と送られてくる情報を整理し、大脳へ伝達する働きをしている神経線維の中継点。エンケファリンは辛い感情を和らげ、幸福感をもたらす作用があります。

グレープフルーツやオレンジ、クラリセージ、ローズ・オットーなどがこのグループ。気分をぱっと明るくするような、ぬくもりのある香りがそろっています。

リラックスさせ、陶酔感をもたらす「催淫」のグループ

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内気でしりごみする気持ちやロマンスがほしいなど、自信をつけて後押ししてくれる香りがあったらいいですね。

このグループは下垂体に働きかけ、脳内麻薬物質であるエンドルフィンを分泌させます。

下垂体は視床下部からの指令を受け、ホルモン分泌器官へ伝える役割を担っています。エンドルフィンは、幸福感をもたらすエンケファリンとよく似ていますが、より陶酔感が強く性欲を高める作用が強いのが特徴。

マラソンランナーに良くみられる「ランナーズハイ」は、このエンドルフィンが脳からたくさん分泌され、苦しさを感じにくくし、また走りたい、もっと走りたいという中毒性をもたらします。

ジャスミンやイランイラン、パチュリーなどがこのグループ。甘く濃厚で重い香りがそろっています。

香りをブレンドする場合は3~5種類、3グループ以下に抑える

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第2回目の時に、精油をバランスよくブレンドするには、トップ・ミドル・ベースを考慮して選ぶのがポイントとお伝えしました。

香りの揮発スピードの速いもの、ゆっくりのもの、それぞれをつなぐ橋渡しをする香りをブレンドすることで、長く香りを楽しむことができます。

サイコ・アロマ・チャート式を使う場合、自分がいまどんな状態にあり、どんな風になりたいのかを明確にする必要があります。

例えば元気を出す香りがいい。さらに、幸福感と気持ちのバランスを整えてくれるものがいいとしましょう。

この場合、元気鼓舞、幸福、調整、それぞれのグループから精油を選択。トップ・・ミドル・ベースを考慮して、カルダモン(元気鼓舞・ミドル)、オレンジ(幸福・トップ)、ローズ・オットー(幸福・ミドル)、フランキンセンス(調節・ベース)を選びました。

カルダモン1滴、オレンジ5滴、ローズオットー1滴、フランキンセンス3滴をブレンド。個性や香りの強いものは少なくし、スパイシーかつ、エキゾチックなブレンドに仕上げてみました。

サイコ・アロマ・チャート式で選ぶ場合は、最低でも2グループ、最高で3グループまでに抑えるようにします。それぞれの作用が拮抗し、打ち消しあってしまうからです。

フレグランス・チャート式に比べると、よりアロマテラピーらしく、心身へのアプローチが明確なブレンドが完成できます。

サイコ・アロマ・チャートを使って、オリジナルブレンドの香りをつくるポイントまとめ

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まずは「自分がどんな風になりたいか」を分析し、その目標に近づけるためにはどんな作用が必要かを考えます。

仕事に集中したい。ストレスを緩和したい。緊張をほぐして自信をつけたいなど。欲張りすぎず、いま一番必要なものに狙いを絞ります。

その上でチョイスしたグループの中で、いちばん使ってみたい香りを選びとりましょう。

選んだ精油をキーに相性のいい香り、トップ・ミドル・ベースになるものを選択し、ブレンドをまとめていくとスムーズです。

初めは難しく感じるかもしれませんが、あとは経験を重ねるのが大切。精油と親しむことで、暮らしに役立つ香りの魅力をより深く感じることができるのではないでしょうか。

<ブレンド例>
(1)ブレンドテーマ:あがり症なので気持ちを落ち着け、プレゼンを成功させたい
(2)サイコ・アロマ・チャート:鎮静・調整・幸福のグループ
(3)ネロリ(鎮静・ミドル)の香りが好きなのでこの精油をキーにする
(4)ネロリと相性のよいベルガモット(調整・トップ)、ラベンダー(鎮静・ミドル)、シダーウッド(幸福・ベース)をチョイスした
(5)10mlのガラス遮光瓶にネロリ1滴、ラベンダー3滴、シダーウッド2滴、ベルガモット4滴を入れてよく混ぜた原液ブレンドを創作
(6)ティッシュなどにたらし、プレゼン前などに吸引したり、オフィスのデスクで香らせて楽しむ

オリジナルブレンドを組み立てたら、出来上がった香りの印象や良かった点、反省点をメモしておきましょう。

ただし、効果・効能を追いかけるあまり、好きではない香りを無理して使うのはNG。あくまでも自分にとって心地よいと感じるものがベストと覚えておきましょう。

次回は歴史にその名を刻んだ名香から学ぶブレンドテクニックをお伝えします。